1 君と呼ぶひと

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私だけが楽しんで歩いているうちに、あっという間に桜駅に着いた。改札をぬけホームへ行き、今日も瀬戸くんに続いて電車に乗り込む。 隣町の男子校の生徒がちらちら乗っているとはいえ、やっぱり群馬の田舎の路線はガラガラだ。 緑色の椅子、瀬戸くんの隣りに少し間を開けてそっと座った。 私の家は4駅目の世良田(せらだ)駅、瀬戸くんは3駅目の木崎(きざき)駅。どっちも似たような、田んぼの多い長閑な町。瀬戸くんと紘人の駅が一緒なことをふと思って、その考えを頭の隅に追いやった。 「今日もバイト?」 ガタンゴトンと揺られながらふざけてそう訊くと、背筋を伸ばして姿勢よく座ってる瀬戸くんがうんと呟く。 「頑張ってね。あ、でも頑張ってるなら頑張らないでね」 瀬戸くんの嘘にのって会話を続けてみたら、瀬戸くんが少しの間を置いてフッと笑った。 「……どっちだよ」 いつも不機嫌そうな瀬戸くんの、眉を下げてフニャッと崩れた横顔は、なんだかとても……とても。
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