1 君と呼ぶひと

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ドアを開けると、パソコン室は暗くしんとしていた。15分間の休み時間に入ってすぐ出てきたから、やっぱり1番のりだ。 人の目のない静かな空間に、少しほっとした。 パソコンのために黒の遮光カーテンで締め切られたこの教室は、いつも独特な機械の匂いがする。 「えっと……電気、電気は……」 もう、どうして入口傍にスイッチがないの? 教卓のあるスクリーン横のスイッチを目指して、40台は並ぶパソコンの間の狭い通路を通り、廊下の明かりから離れて薄暗い中を1人で進んでいく。 真ん中辺りまで来た時だった。 「わっ」 痛っ。 飛び出ていた椅子の足に躓いて思い切り転んでしまった。こんなふうにカッコ悪く転ぶなんて何年ぶりだろう? ついてない。 「もう! 椅子くらいしまってよ!」 思わず独り言を言いながら起き上がって座り込み、私を転ばせた椅子の方を振り返った。 「ひっ」 途端に、心臓が飛び上がって、変な声が出た。 視界に飛び込んできたのは、椅子を4脚繋げて堂々と仰向けに寝ている男子生徒の後ろ姿だったから。 ちょうど私の真横にはさらりとした短めの黒髪がある。
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