3 君と夢

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十字枠の窓周りに、2人でようやく壁紙を貼り終えると、瀬戸くんは特に何も言わず部屋を出ていった。 「ちょっと休憩」 ごろんと寝転がって、手足を思い切り伸ばした。天窓の向こうに、薄い雲が流れていく。 でも、この状況を見つかれば怒られるから、一度起き上がってアイビーの蔓を広げ、また寝転んだ。とりあえず作業しているふりができるようにしておく。 居心地がいいな。  数分後、瀬戸くんが戻ってくると、両手に抱えていたのは何やら本格的に見える機材だ。 「え、それなに?」 「ビデオカメラは元々持ってた。照明とマイク、スピーカー、マイクスタンドはネットで中古を買った。ないよりいいだろ」 「……」 え? 私のYouTubeのために? 瀬戸くんのお金で? なんで? 瀬戸くんがこうまでしてくれる理由が全くわからずに、ただ呆然とする。 「君の動画は残念過ぎる。あれじゃ、誰も見ない。とりあえずあの5曲は全部撮り直しだな」 「えっ……と」 「何」 「す、すごいね! すごい!」 「何が」 「こんなところで歌えるなんて、撮ってもらえるなんて嬉しい」 思わず溢れそうになった涙を誤魔化すために、無理にはしゃいでギターに飛びついた。
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