1 君と呼ぶひと

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「何?」 不機嫌な声。……あれ、さっきの顔は夢だった? 「なんでもないです」 「そういう君は、部活しないで何してる?」 初めて、瀬戸くんが私自身のことを訊いてくれたことに気づいた。 「私ね放課後は毎日、太田(おおた)駅の北口で歌ってるの」 「毎日?」 「うん、毎日。良かったら今度聴きに来てね」 その時、電車が太田駅に停車した。 「僕はここで降りる。君は?」 「えっ、今日だけはお休みなの。瀬戸くんは買い物?」 無意識に左手を右手でそっと包んで隠した。 「バイト。じゃ」 また嘘をついてあっさりと降りていく瀬戸くんに手を振って見送った。 ドアが閉まると、背もたれに背中をついて息を吐いた。 ガタンゴトンとゆっくり揺られていく。向かいの窓には、田植え前で少し荒れた土の広がる田んぼの景色が広がっていた。
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