カナコのえすけーぷ

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   一年前、カナコの母は若い男をつくって家を出て行った。  美しいが、奔放で夢見がちな性格の彼女らしい行動だった。  カナコの母が出て行ったあと、父親は誰の目から見ても分かるくらいに壊れていった。  仕事は辞め、酒に溺れる毎日。  そして自身の心の穴を埋めるように、カナコに執着するようになった。  一か月前に娘が彼氏と手をつないで歩いているのを見たカナコの父は激高し、カナコを自宅の地下室に閉じ込めたのだった。 ***  父を自身の手で殺したカナコは、地上へと続く階段に足を掛けた。  もう彼女を閉じこめる者はいない。  カナコは希望に胸を膨らませた。  ――外に出たら……まず何をしよう? そうだ、その前にシャワーを浴びなきゃ。お湯も落として温かいお風呂に入ろう。身体をすみずみまで洗って、シャンプーとトリートメントもしよう。  そうしたら可愛い服に着替えて、シンジと一緒にクリスマスの街でデートするんだ。ちゃんとメイクして、真っ白で雪みたいなワンピースを着て……靴はどうしようか?  あ、美味しいものもいっぱい食べたいなあ。もうずっとまともな食事をしてないんだもの。  そういえば何故シンジは助けに来てくれなかったんだろう?  ……ま、いっか。  それから、夢を叶えよう。  私は絶対に歌手になる。  スポットライトを浴びて、皆に私の歌を聞いてもらうんだ。  そうだよね? お父さん。  カナコには今は何時か分からない。  外の世界が昼か夜なのかも分からない。  それでも彼女は光を信じ、階段を一歩ずつ上っていった。
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