思い出

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十四になった誕生日の夜、月明かりの下に彼は現れた。 私の部屋があるお城の塔はとても高くて、人が登ってこれるようなところじゃない。 それなのに彼は、私の部屋の窓を叩いて、ひょっこりと現れた。 「こんばんはお嬢さん」 夜の冷たい風に煽られてカーテンが舞った。 月を背に窓枠に立つ彼は、今までに見た何よりも美しく見えた。 「散歩でも、いかがですか?」 彼はたった一言そう言った。 私は彼の差し出した手を迷いなくとって窓の外へ一歩踏み出した。 冷たい夜の空を、彼は私の腕を引いて飛んだ。 生まれて初めて出た外の世界は、広くて、自由で、月と星の輝く素晴らしい世界だった。 一生忘れることは無いだろうと、そう思った。
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