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こいつは現実を知らなすぎる。それとも目を背けすぎているのか。
「ってゆーか、冬田ちゃんたちの愛の営みを妨害するだけのためにサンタさん捕獲するとか言ってんの? そもそもサンタさん捕まえればクリスマス破綻すると思うとか、マジでその発想イカれて──」
「名案だろ? 俺の野望のために捕獲されるサンタさんもサンタさんで身に覚えもないだろうし理不尽だし、そりゃ不憫だろうが」
「え、ちょ、怖い怖い怖い」
「何が怖い? 敵か?」
「ちげーよお前だよ、お前の脳みそというシュール系バグ現象だよ。──あ、敵の前回り込んだんなら閃光弾投げてくんない? あと落とし穴作っとけっつったじゃん」
話しながらゲーム画面を見つめ、的確な指示を送る。
「俺、サンタは宇宙人だと思ってる」
「うるせーよ、お前が落とし穴に落ちればいいのに」
カシカシ、カシカシ。ギュイッギュイッ。ボタンを押す音とスティックを回す音だけが部室内に響く。
このバカにとって私は女に見られていないようで、かと言って嫌われてもいない。男友達として扱っているようだ。
周りからはBLと揶揄されたこともある。……何でそうなる。
木津という男はデリカシーもないし貧乏だしなんか薄汚れているし、魅力は一欠片もない。
立ち上げた親子丼同好会の人員も微々たるものしか集まらないところを見るに、人望もないのだろう。下手したら私の方が女子にモテる。
ただ、唯一と言ってもいいこいつの魅力は、都内の親子丼の名店を数多く知っていることだ。
私は親子丼が大好きなのだ。
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