葬儀会館・タチバナメモリアルにて

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 侑紀が焦って準備をしていると、司会台横のスライド式ドアがカラリと開いた。  供花に遮られてフロアからは見えないそこに、都築がするりと体を滑らせ入って来る。  真横に立ち、元々良くない目付きを更に眇めて見下ろされ、侑紀は思わず目を逸らした。 「──おまえ。今何時だ、言ってみろ」 「っ、……6時、50分です」 「柩の移送は、式の何分前だ?」 「今日は家族葬だから……30分前、です」 「打ち合わせ、長げーんだよっ、何回言わせるんだ?」 「すみませんっ」 「いちいち感情移入しすぎて泣いてんじゃねぇよ、男だろっ。喪主にハンカチ借りてんじゃねぇっ」 「はいっ」  ……見られていた。 「大体、今日の故人は何歳だ?」 「……99歳です」 「99、数えで100歳だ。大往生なんて他人が言っていいもんじゃないが、立派な大往生なんだよっ。他の親族見てみろ、皆お祭り騒ぎだ」  ひ孫たちの周りで、大人たちはまだ式前だというのに飲んでいる人が多かった。  久しぶりに集まる親戚に話は尽きないようで、皆楽しそうに盛り上がっている。  ……喪主以外、泣いている人は見当たらなかった。  人間、百まで生きると、もはやお祝いらしい。 「まぁ、喪主が末っ子で一番可愛がってもらったんだろう。おまえが寄り添ってやるのはいいが、もっと要領良くやれ」 「はい、すみません」 「寺が待ってる、行け」 「はいっ」 「……開式、遅れんじゃねーぞ」 「っ、はい」  ワントーン低い声で囁かれ、侑紀は慌ててバインダーを抱えて都築の横をすり抜けた。  いつものことながら、終始ヒソヒソ声なのに威圧的に喋れる都築は、ある意味すごいと侑紀は思うのだった。
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