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今回の式に入る常福寺の住職とは、侑紀は顔なじみだった。
これが初見の檀家寺だと、細かい打ち合わせが必要になり時間を要する。
最近では、普段から寺と付き合いをしている家も少なく、葬儀の際には葬儀会社に寺の紹介を頼むケースが増えている。
常福寺は、個人的な知り合いであることに加えて会館からの紹介寺でもあり、侑紀も何度も一緒に仕事をしているので、式の流れは把握していた。
住職の控え室に来ると、小さくノックして中に入る。
「ああ侑紀くん、今晩は。司会業がすっかり板に付いてきたねぇ。ご両親は、お元気かな?」
「今晩は。僕はまだまだですけど、父も母も、お陰様で元気にやっております」
住職は、にこにこと侑紀を眺めた。
侑紀の実家は老舗の仏具店で、常福寺とは古い付き合いだった。
侑紀を子供の頃から知っている住職は、親のような気持ちで自分を見守ってくれる。侑紀も、優しい住職が大好きだった。
「住職、今日は家族葬なんですが、ご親族が多くて小さい子を入れると50名近くいらっしゃいます」
「うんうん、いつも通りでいいよ。焼香台、増やしといてね」
「はい。それで……」
「侑紀くんもしっかりしてきたねぇ、ご両親もさぞお喜びだろう。幾つになったんだっけ」
「あ、ありがとうございます、26です。あと……」
「そう言えば、この前、お兄さんに会ったよ。あの子も立派になったねぇ」
「あの、住職、時間が……」
「うんうん、ちょっとくらい、待たせときなさい」
「………」
大らかな住職は、いつもこんな感じだ。
侑紀も時間があればゆっくりと話をしたいのだが、今はそうもいかない。
何とか早々に話を切り上げて住職の控え室を出ると、腕組みをした都築が壁に寄り掛かって立っていた。
「……3分前。おまえにしては上出来だな。よし、開式だ」
「はいっ」
急いで白手袋を着用し、司会台へ戻るドアを開けようとする侑紀に、ふいに都築の顔が近付いてきた。
「仕事が終わったら、待ってろ。勝手に帰るなよ」
「っ、……はい」
息が掛かりそうな至近距離で囁かれた低い声に思わずドキリとしながら、小さく頷いた侑紀は、何とか平静を装って司会台へ戻った。
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