葬儀会館・タチバナメモリアルにて

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 司会台の前に立った侑紀は、静かに開式を待つその空間を見渡した。  厳かなこの場に立つと、いつでも気持ちが引き締まる。侑紀はこの緊張感が嫌いではなかった。  式場には、数珠を手にした親族らが、穏やかな表情で思い思いに座っている。  その一番前の席に、目を赤くした喪主の姿があった。  侑紀は一度、静かに深呼吸をして、マイクを握る。 「──花が咲き、散りゆくように、人の世もまた季節と共にいつしか終焉の時が訪れます。語れば尽きない思い出を残し、永遠の眠りにつかれました、故・──様。歩まれしその尊きご生涯に、ここに謹んで哀悼の意を表します。これよりのひと時は、皆様心の中の大切な思い出を紐解いていただきながら、共にお勤めください。……それでは、式場内に導師様をお迎え致します──」  葬儀というものは、地域性が色濃く出る儀式だと思う。  田舎の方に行くと、驚くような風習が未だに残っていたりもするが、侑紀のいるこの地域はごく一般的だろうと思う。  何をもって一般的と言っていいのか、よく分からないところではあるが。  式場に導師を迎えて読経が始まり、打ち合わせで決められた頃合いにアナウンスを入れて、喪主から順に焼香をしてもらう。  今回は家族葬のため、一般の参列者はいない。  全員の焼香が終わって程なく読経も終了し、通夜式は30分程で滞りなく閉式した。  いつもは式後の法話を長々と話す喋り好きな住職も、小さな子がぐずり出したのを見て、珍しく早々に切り上げた。
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