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「──あっ」
ナレーションを大分書き進めたところで、ふいに式場の明かりが落ち、侑紀は驚いて顔を上げた。
「ん? ああ、悪い。そこにいたのか」
すぐに戻った明るさに、ほっとする。
誰もいないと思った都築が、明かりを落としたようだった。
「ナレーション書いてるのか? ……長いな」
司会台に歩み寄り、手元を覗き込んだ都築の眉間に皺が寄った。
「DVDに被せるなら、長さは4分半だ。開式前に終わらせろよ」
タチバナメモリアルでは、希望に応じて故人の写真を預かり、DVDに編集して葬儀の際に上映するサービスがある。
映像の作成は担当者の仕事で、今回は喪主の希望で枚数も多いと聞いていた。
映像が短ければナレーションを先に終えてからDVDを見てもらうのだが、明日は上映時にナレーションを被せる同時進行が良さそうだ。
「分かってると思うが、出棺遅れるなよ。おまえ、斎場に目を付けられてるんだから」
「……はい」
ここの地域の火葬場、桜木斎場は、時間に厳しい。
もちろんどこの火葬場もそうなのだろうが、この地域は人口に比べて火葬場の数が圧倒的に少ない。1件でも遅れが出るとあとに響くのだから、厳しくなるのも当然だった。
侑紀は何度か遅れてしまい、注意勧告を受けている。
「よし、帰るか。送って行く」
「え、あの、話ならここで……」
「話? 話なら、車の中でゆっくり聞いてやる。着替えてくるから、下で待ってろ」
「いえ、1人で帰れますから」
「だめだ。送って行く。──大事な預かりものだからな」
「………」
「ほら、電気消すぞ。早くしろ」
「っ、はい」
侑紀は小さく息を吐いて、帰り支度を急いだ。
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