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今は実家暮らしをしている侑紀は、普段電車で通勤している。
都築は、侑紀の実家である広瀬仏具店から程近いマンションに1人暮らしをしている。
帰り道のついでといえばついでなのかもしれないが、侑紀が通夜に入るといつも送ってくれるので、住職程は気を使わないにしろさすがに申し訳なかった。
もう9月も終わりだというのに、まだ残暑が厳しい。
駐車場に続く通用口に立つと、幾分心地いい風が吹いた。
「待たせたな、行こうか」
しばらくしてやって来た都築は、ラフな格好に着替えていた。
仕事中の堅苦しさが、一気に軽減する。
「……いつも、すみません」
「ははっ、殊勝だな」
侑紀の髪をくしゃりと撫でて、都築がにこりと笑って言う。
仕事以外で接する都築は、総じて優しかった。
というか、元々普段は優しいのだが仕事になるとどこかスイッチが入るらしく、人が変わったように厳しくなるのだ。
本人は特に意識していないようなのだが、そのため職場の彼しか知らないスタッフから、ただただ恐れられているのは否めない。
都築を昔から知っている侑紀も、初めは仕事中のあまりの厳しさに、かなり驚いたのだった。
今では、すっかり慣れてしまっているが。
侑紀を助手席に乗せた都築は、車を滑らせ会館をあとにする。
会館から侑紀の自宅までは、車だと30分程の距離だ。今日は道も空いているので、もう少し早くに着きそうだった。
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