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「昴紀は元気か?」
窓から流れる景色を何とはなしに眺めていると、ふいに都築が口を開いた。
「はい、元気ですよ。今、由美さん実家に帰ってるから、しょっ中うちにメシ食いに来てます」
「予定日、まだ随分先じゃなかったか?」
「そうなんですけど、由美さん何か体調崩しちゃって。しばらく実家で養生するって」
「まぁ、実家の方が落ち着くだろうな」
「ええ。うちの母も、気兼ねせずゆっくりしてこいって」
侑紀の6つ上の兄の昴紀は昨年結婚し、今は身重の奥さんと実家近くのマンションに住んでいる。
兄も義姉も同居するつもりでいたのだが、母親が2人で住むことを勧めたのだった。
『気持ちは嬉しいわ、ありがとうね。でもそれは、おいおいでいいんじゃない? しばらくは2人だけで頑張ってみなさい』
母がこの家に嫁いできた時は、義母と色々あったらしい。
侑紀の祖母に当たるその人は、侑紀が随分小さい時に亡くなっているのであまり覚えていないが、記憶に残る彼女は凛とした厳しい人だったように思う。
母は、思ったことは口に出すが大らかを絵に描いたような人で、とても嫁いびりをするとは思えないが、自分のような思いを少しでもさせたくなかったのだろう。
「おばさん、優しいからなぁ」
「……怒ると怖いですけどね」
「知ってる。おまえ、昔よく怒られて泣いてたもんな」
「っ!」
都築は、兄と同級の幼なじみだ。
小さい頃、よく家に遊びに来ていた都築とは家族のような付き合いで、侑紀もいつも遊んでもらっていた。
思えば、長い付き合いだ。会っていない期間を挟んではいるけれど。
侑紀はそっと、昔の面影が微かに残る都築の横顔を眺めた。
すらりと通った鼻筋と、少し歪んだ口元。彫りが深くて影を落とした切れ長の目元は、一重のせいかきつく見える。
だが、バランスの整った目鼻立ちは、総じて男前だった。
男らしく成長している都築に比べ、自分の顔立ちは子供の頃から余り変わっていないような気がする。
決して童顔という訳ではないが、余り男らしい容貌でもない。目が大きくて丸顔だし、色も白い。猫っ毛も治らなかった。
身長も、自分より10センチは高い都築が、正直羨ましい。
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