葬儀会館・タチバナメモリアルにて

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葬儀会館・タチバナメモリアルにて

         ◆ 「……でね、私ら5人の子供を誰1人欠けることなく育て上げたことが、母の誇りだったんです。厳しい時代でしたからねぇ……ああ、上の2人は、10年程前に亡くなってるんですけどね」  小さくしょぼつかせた目を真っ赤に泣き腫らし、憔悴しきった男性は、懐かしむように額縁の中の母に目を移した。  そこには、上品な藤色の着物を身につけた高齢の女性が、穏やかに微笑んでいる。  女性の末の子であるという、その年老いた男性は、新たな涙を目に浮かべそっと指の腹で拭った。 「……そうですか……っ、……」  葬儀会館タチバナメモリアルの親族控えの和室で、喪主の男性と向かい合って座っていた広瀬侑紀は、つられるように遺影に視線を移し、そのはずみで堪えていた涙をぽろりと零した。 「ああ、どうぞ」 「……すみません」  喪主の男性に差し出された、きれいに折り畳まれた白いハンカチを受け取り、そっと瞼を押さえる。 「あなたは優しい人だ。広瀬さんとおっしゃいましたかな。……母さん、良かったねぇ。最後に、こんなに優しい人に送ってもらえて」 「ううぅっ……っ……」  侑紀は溢れる涙を堪えきれず、俯いて肩を小さく震わせた。 「母も喜んでいると思いますよ。広瀬さん、本当にありがとう」 「……いえっ……」  その母は今、遺影の向こうの白い柩の中に、静かに横たわっている。  古き良きしきたりの息づく時代に生まれ育ち、戦争という苦難に辛酸を舐めつつも這いつくばるように5人の子供を育て上げた、逞しくも大いなる母に思いを馳せ、侑紀は胸が熱くなった。  襖を隔てた隣の部屋には、彼女の孫やひ孫たちが、たくさん集まって来ている。  その晩年は、可愛い子らに囲まれて幸せに過ごせただろうことを、本当に良かったと、侑紀は思った。  ようやく訪れた穏やかな時間に、もう少し長生きしてほしかったと、惜しむ家族の気持ちが痛い程伝わる。  2人は、しばらく無言で遺影を眺めた。
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