さくら色の未来へ

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「──それで? 久世と何を話していたんだ」  会館に戻るため、都築の運転する霊柩車に乗り込んだ侑紀は、開口一番に問い掛けられる。 「えっと、……内緒?」 「は? 何だそれ」  都築は前を見ながら、くすりと笑った。 「おまえ、意外と秘密主義なんだな。まだまだ知らないことが多い。侑紀が、エルサ・ボーン? が好きだなんて、初めて知ったよ」 「はは、今度CD貸しましょうか?」 「ああ、貸してくれ。侑紀がどんなものを好きなのか、俺も知りたい」  ──ああ。僕も都築さんのことを、もっと知りたい。この人のことを、もっともっと知りたいと思う。  過ぎてしまった年月に、そうとは知らず傷付けてしまった過去は消えないけれど、これからはもっと、この人のことを分かりたい。  守られるばかりじゃなく、自分なりにこの人を守っていきたい。 「今日は随分、暖かいな。暑いくらいだ」  都築が少し窓を下ろすと、爽やかな風と共に金木犀の甘い匂いが車の中に入ってきた。  季節は、ゆっくりと移ろいでゆく。  来年のあの公園の桜は、都築と一緒に見に行きたい。できることなら、再来年も、その先も── 「いい天気だな。このままドライブに行こうか、侑紀」 「……霊柩車ですよ、これ」 「ははっ、そうだったな」  空は雲1つなく、抜けるように青い。  やっぱり機嫌のいい都築の横顔を眺めながら侑紀の心を満たしたものは、ちょっぴり痛みの伴った、甘くて心地いい幸福感だった。                (おわり)
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