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愛の病
「胸がくるしい」
友人宅で食事をし帰宅するなりアルテミスはぽつりと呟き、何とかしてくれとばかりに執事のグレイを見つめた。
呼ばれたグレイは主人の鞄を椅子の上に置き、さっきまで元気だったのだが、と取り敢えず常套句を告げてみる。
「それは大変です。すぐに医者を呼びましょう」
すると、ひらひらと手を振り、違うんだ、わかっているだろうとばかりにツルツルのほっぺをちょっと膨らませた。
「そっちの苦しさじゃない。小さい頃に姉たちに葡萄樽に頭から入れられたことを思い出す苦しさだ」
「ああ……、あれは衝撃的な出来事でした。白のシャツを綺麗な色に染め上げ、葡萄塗れのぐしょぐしょになりながら近所の犬に舐められ追いかけ回され、なぜか樽という樽を転がし回っていましたね」
「あれには理由があったんだ。って、言いたいのはそこじゃないよ」
「失礼いたしました。それで、その例えだと物理的に苦しいのか胸が詰まるような苦しさなのかわかりませんね」
「そうか? わかっていると思うが、これはそう……、愛の病だ!!」
「……愛の病、ですか。それは久しぶりですね。ここしばらくは発症していなかったかと」
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