ワインの色

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 理人との出会いは運命としか言いようがない。  理人は友人の結婚式の二次会に来ていて、帰ろうと店を出た時に跨線橋(こせんきょう)の階段から転げ落ちてきた私を咄嗟に抱きとめてくれたのだった。彼のおかげで大した怪我もせずに済んだはずなのに、なぜか私は自分の名前さえもわからない状態で、親切な彼はすぐにタクシーで私を病院へ連れて行ってくれた。そして、私が検査入院をしていた間、毎日お見舞いに来てくれた。  心因性記憶障害と診断された私は今も記憶が戻らないままだけれど、理人は何かと気に掛けてくれて、友達以上恋人未満のような付き合いが続いている。  店の入口の両脇にはクリスマスツリーが置かれ、中に入れば天井からヤドリギがぶら下がっている。まだ十二月初旬なのに、こじんまりとした店の中はすでにクリスマス当日かのように飾り立てられていた。  だからといって煌びやかなわけでも賑やかなわけでもない。静かに流れるBGMはドイツ語の『もみの木』。まるでクリスマス休暇で帰ってきた家族を温かく迎えてくれる、ドイツの田舎の家のような居心地の良さがある。 「素敵ね。ドイツ料理のお店?」 「うん。今の時期だと、シュトーレンが持ち帰れるんだ」 「シュトーレンってドライフルーツが入ってる硬いパンみたいなお菓子よね?」  日持ちするから、アドベントの間に少しずつ切って食べていくドイツの伝統的なお菓子。日毎にフルーツの風味が増していくので、クリスマスを心待ちにしながら味の変化を楽しめる。  それぐらいの知識は私にもあるし、たぶん食べたこともある。ゴツゴツした地味な見た目のシュトーレンがすぐに頭に浮かんだから。
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