ワインの色

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「こんな寒い日にはグリューワインがお勧めなんだけど、ケイはシナモンが苦手だから冷たいワインにしたよ」  テーブルに置かれたワインはロゼだった。 「ロゼ……」 「『赤でもなく白でもない。中途半端な僕はロゼワインみたいだ』って零した僕に、ケイは『理人は理人だ』って言ってくれたよね。あれで僕は救われたんだ。今日は出会って一周年の記念に、感謝の気持ちを込めて一緒にロゼを楽しもうと思う。どうかな?」 「私、ロゼって飲んだことないかも。楽しみだわ」  私が微笑むと、理人はホッとしたように息を漏らしてグラスにワインを注いだ。  可愛いピンク色のロゼはほんのり頬を染めた乙女のようなのに、口に含むとキリッとした辛口で驚いた。それでいて後味は微かにフルーティーな甘みが感じられる。 「美味しい……」 「ロゼは赤ワインのコクと白ワインの飲みやすさを併せ持つ、両方のいいとこ取りみたいなワインなんだ。どんな料理にも合うオールラウンダーだしね」  ネットの受け売りだけどと笑う理人は、いつも飾らない素の顔を見せてくれる。  自信たっぷりに生きているように見えて、やはり自分のアイデンティティーに悩むことも多々あるようで、付き合いが長くなればなるほど私には弱音を吐いてくれるようになった。  東京や観光地では外国人の姿が多く見られるようになったものの、圧倒的に日本人が多いこの国で、日本人離れした容姿の理人は子どもの頃から周囲の差別的な言葉や排他的な態度に傷ついてきた。大人になった今でも、彼は自分がどう生きていくかを模索している。  でも、ロゼみたいに中途半端なのは私の方だ。「理人は理人だ」と言えるのに、「私は私だ」と言えるほど私は自分をわかっていない。一体、私はどこの誰なのか。  結局のところ、外国人の血が流れていようがいまいが、人間は誰しも“どう生きるか”を自問自答しながら生きていくものなのかもしれない。
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