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――世界は乱れ、人々は恐怖に逃げ惑うばかり。このままでは、私が愛した美しい世界は破壊され尽くしてしまう。……闇を持たぬ、美しい光の心を持つ勇者。今こそ、その者の力が必要です……!
エリオーネが選んだのは、“地球”の“日本”という国に住む、一人の少年“キイヤ”だった。ファンタジーな世界を夢見て、魔法などの存在を信じる彼ならば。きっとこの世界を愛し、共感し、魔王を倒してくれると信じたのである。
特に彼は、学校で誰かをいじめることもなければ、犯罪に加担したこともなく、むしろ極めて正義感の強い人物であった。まさに、正義の味方となるに相応しい。闇の欠片など一切見えないその少年こそ、光の勇者になるべくして産まれた存在である。女神はそう信じ、自信を持って彼を自分の世界に招き、光の勇者として任命したのである。
『魔王がこの世界を壊そうとしているだって?絶対許せないな、そんなのは!』
召喚されてすぐ、夢に見たような妖精達の世界に心惹かれ、夢中になったキイヤ。女神が与えた強大な魔法の力と剣技を自在に使いこなしてみせた彼は、エリオーネが期待した通りに憤り、自分が世界を救ってみせると誓ってくれた。
自分の選択に、間違いはない。彼ならばきっと、魔王を倒してこの世界に平和を齎してくれることだろう。
『お願いします、キイヤ。どうか貴方の力で魔王を討伐し、この美しい世界に希望の光を。平和を、取り戻してください』
そう、確信をもってエリオーネは彼を送り出し――キイヤは、期待通りの成果を上げてみせたのだった。魔王と、魔王に従った魔王軍――テロリストの集団の幹部達を見事に討伐し。残党達はみな、散り散りになって敗走していったのである。
世界の人々はキイヤの名前を湛え、世界には再び平和が戻ったように見えた。キイヤは満面の笑顔で皆に手を振り、満足そうに元の“日本”へと帰っていったのである。まあ、若干この世界に対して未練があった様子ではあったけれど。
問題は――そうやってキイヤが作り出した平和が、長続きしなかったということだ。
数年後。再び“魔王”は現れたのである。それは初代の魔王として討伐された少年の“妹”だった。彼女は残党達と、それ以外にもこの世界に不満を持つ者達を集めて、再び蜂起し、女神に弓引いてきたのだった。
彼女の主張も、少年と同じ。そしてそれに加えて、愛しい兄の復讐、という名目が加わっていた。初代魔王以上の勢力と、再び始まった惨劇にエリオーネは大いに焦る。もう一度勇者を呼び、世界を救って貰うしかない。
――とにかく、次こそはもう……魔王が生まれないようにしなければ。キイヤ以上に光に満ちた、絶対的な正義でもってして悪を倒すことのできる勇者を……!未来永劫の平和を齎すことのできる存在を……!
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