或る、光の勇者の物語

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 ***  何故。エリオーネは、思う。  何故、自分の召喚はうまくいかないのだろうか、と。  気づけば、呼び出した勇者の数は三桁以上の数に上っていた。魔王が現れ、勇者を呼び出し、その勇者が魔王を倒して元の世界に帰る。そうすると、一時だけ世界に平和が戻るものの、数年か数十年も過ぎれば新たな魔王が現れて世界を壊そうと暴れだしてしまうのである。  自分のやったことは、間違っていないはずだった。正義感の強い者。罪など一切犯したことのない者。悪意の欠片もない、心の綺麗な者。人々を助けることに強い信念を燃やす者。人助けを生きがいにする心優しい者――闇に染まる気配のない、まさに光と呼ぶに相応しい勇者達だった。実際彼らはきちんと役目を果たし、必ず魔王を討伐して一時の平和を齎してくれる。人々にも感謝され、時に石像を立てて祀られることさえあるほどである。  それなのに、彼らの働きの効果は長持ちしない。一体何がいけないのだろう。自分の選択が間違っているのか。ただ、光に満ちた者を勇者に選ぶだけではいけないのだろうか。  悩み、苦しんでいたエリオーネに。ある時、貧しい村の娘が、祠の前で告げたのである。 『光の女神、エリオーネ様。平和とは、一体何なのでしょうか。私には、何が正義で悪か、何が平和と呼ぶべきものなのかがわからないのです』  ボロボロのワンピース一枚纏った少女は両手をあわせ、女神に必死で問うたのだった。 『私達の村は、領主様に重い年貢を収め続けなければいけないせいでいつも貧乏です。……みんなが満足にごはんを食べられたのは。魔王軍が、領主様達を殺して、重い年貢を収めなくて済んだ年だけでした。勇者様が魔王を倒して世界は平和になったとみんなは言うけれど、私達にとっては違います。魔王がいなくなったのをいいことに、新しい領主様が着き、私達は再び重税で苦しむことになりました。魔王がいた時代だけが、私達にとっては“平和”と呼べだ時代だったのです』  それは、エリオーネが全く思いもしていなかった、一つの真実だった。  魔王は、多くの人々から財を奪い、住む場所を奪い、平穏を奪う憎むべき存在であったはずである。  しかしその裏で、魔王の存在により救われていた者達もまた、確かに存在していたのだ。
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