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『今現れた魔王は、先代の魔王の弟だと聞いています。兄を殺した者達が許せないと、だから復讐するのだと言っています。……家族を殺されて、悲しむ気持ちは魔王だろうと貴族だろうと庶民だろうと同じであるはず。彼らの怒りは、それほどまでに罪なのでしょうか。そして勇者様は……勇者様達はどうして、魔王を倒すだけでいつも帰ってしまわれるのでしょう。私達にとっては、魔王が倒れたら平和になるほど、簡単な世界ではないというのに』
ああ、自分はなんと愚かな真似をしていたのだろう。エリオーネは心底後悔することになる。自分は、物事のほんの一面しか見えてなかったと気づかされたのだ。
平和だと信じていたこの世界は。本当は、エリオーネが気づかぬ場所で歪み、苦しむ人々がたくさん存在する世界であったのだ。貧しい人々、差別される人々、虐げられる人々。それらに気づきもせず、表向きの美しい花畑と町並みだけを見て、自分はこの世界は平和に違いないと思い込んでいたのである。
自分が笑っていれば、世界の全てもまた笑顔に違いないと信じていた。その裏側に、どれほど涙と血が流されていたかも知らずに。
――そして、本当にこの世界を救いたいと思うのなら。魔王を倒して、それで全てを終わりにしてはいけなかったのですね。
何故、魔王が産まれたのか。どうして産まれ続けるのか。勇者とは、悲劇を防ぐためにかくあるべきか。本当の光とは、一体何であったのか。
火事が起きてから、火消しに慌てるよりも。本当は、火事が起きる前に“防災”に務めることこそ自分がするべき行為であったのである。
エリオーネは決意し――新たに、勇者を呼ぶことにした。
それは別の世界でかつて“魔王”と呼ばれ、多くの世界を壊し、人々を殺すという大罪を犯した者。その大罪を悔いて今、多くの世界を渡り歩き人々を救う組織を作った少年であった。
最後の勇者の名前は、“サトヤ”という。
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