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『ガコン』━━と、薄暗いフロアに音が響く。
フロアの隅に置かれた、自動販売機の前にしゃがみこみ、取り出し口から、小さなペットボトルを掴む男の影が動いた。
ペットボトルを手にして、男はフロアを足早に横切る。
歩きながら、フロアの窓から外を覗き、男がため息を吐いた。
「……せめて、波が穏やかであればもうちょっとマシだったろうに」
誰に言うとでもなく、そう男は呟く。
闇の中でも、海が荒れているのがわかる。
ジャーナリストとして、世界各地を飛び回り、しけの海には慣れているはずの男にもこの荒れた海は少々キツイ。
「あの子は、こんなこと慣れてないだろうし……。相当にキツイだろうな……」
慣れてないどころか、初めてかもしれない。
荒れる海を横目に、男は自分があてがわれた部屋に向かった。
部屋の前に立ち、キーを取り出し、扉の鍵を開ける。
部屋に入って、扉の鍵を閉め━━
━━多少、無理をしてでも鍵付きの船室を確保して正解だったな。
ベットに横たわる人物を見て、男はそう思った。
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