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「なのに……こんなところで何をやってるんだよ……。姫ちゃん……」
遼ちゃんの誰に言うともなく発せられたその呟きに、先程対面してきた兄貴の遺体を思い出す。
『遺体の損傷がかなり激しくて。妹さん……。お若いようですが、確認の方は大丈夫ですか?』
遠慮がちにそう言ってきた━━対応してくれた警察官を思い出す。
それでもと、勇気を振り絞り、兄貴の遺体と対面する。
顔に包帯が巻かれ、あまりよく見えない顔に、ところどころ赤黒く変色している腕━━。
警察が見せてくれたカメラや壊れたスマホ。免許証や財布。その他に兄貴だとわかるものは、兄貴が気に入ってよく着ていたパーカーと。
いつだったか。私が旅行に行った時、買ってきたお土産の鈴の御守り━━。
「兄貴……あの鈴。ずっと持っててくれてたんだ……。僕に似合わないだろとか、なぜご当地グルメにしないとか言ってたクセに……」
「ツンデレみたいなとこあったよね。姫ちゃん。取材先とかで他の人にはよく自慢してたよ。『妹が買ってくれたんです』って」
「そうなんだ……。持っててくれてたんだね……」
━━御守りとしての効果は発揮しなかったけど。
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