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「中々良い景色でしょう」
「はい、ずっと眺めていたい気持ちになります」
「そうですか。ウチのかみさんもここからの景色を眺めるのが好きでね、よくお客さんみたいにここで、じっと外を見てましたよ」
「奥様は…」
「十年前に病気で亡くなりましてね。景色を眺めているお客さんの後ろ姿を見たら。急にかみさんの事を思い出しちゃいまして。おっと、これはすみませんね。せっかくの楽しい旅行中にこんな暗い話をしてしまって。なに、もう十年も前の事ですよ、ははは」
野口さんはそう言って笑いながら戻っていった。やっと志穂も満足したのか一瞬景色の方を振り返ってから「そろそろ部屋に行こうか」と言ったので、三脚を担いで部屋に向かった。
ギリギリ五人乗れるくらいの小さいエレベーターで二階に上がって一番最初にある部屋が僕達の部屋だった。部屋は和室で真ん中に大きな木のテーブルがあって座布団が二つしいてある。テーブルの上には蓋付の木の器があって、急須と湯飲み、それにちょっとしたお菓子が入っている。
旅館に来たらまずはこのお菓子を食べながらお茶を一杯飲まなければ始まらない。お湯を沸かすケトルは割と新し目の物が置いてあった。テレビも液晶の新しい物が置いてある。
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