その言葉には裏がある

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その言葉には裏がある

「ねえ、青と赤どちらがいい?」 妻の美代子がブラウスを肩まで吊り上げて、比較しながら訊いてきた。 今日は久しぶりに、妻の買い物に付き合ってショッピングモールに来ている。 「どちらでも、いいんじゃないか?」 俺は両方とも似合うよ。という意味で言ったのだが、美代子は「あんた、本当に他人事よね!」とプンプン怒って試着室に俺を残し、スタスタと出て行った。 こんな事もあった。 二人で外出していると、新作ダイエットドリンクの街頭アンケートに捕まり「特に痩せようと努力した事はありますか?」という質問に「努力した事ないよな」と俺は、何気に美代子の顔を見た。 俺は努力しようがしまいが、今のお前が好きなんだ。という意味で言ったのだが、美代子は目を怒らせて貰ったアルミ缶のドリンクを握り潰した。 プシュッ! あの時は、中の炭酸が飛び散り大変だった。 ちなみに俺は気にならないのだが、美代子に体重を訊くと、七十キロあるそうだ。 「あなたはいつも、言葉が足りないのよ!その気は無いんだろうけど、その度に傷つくのは私なんですからね!」と美代子は説教モードに入っている。 俺は言われるがままに、美代子の前で正座をさせられた。 そんなある晩、俺は物音でふと目が覚めた。 隣で美代子は、ぐーすか寝ている。 俺は音のするリビングを覗きに行った。 すると、、、 「誰だお前は?」 な、なんと。コソ泥がそこにいるではないか! 俺たちはたちまち、揉み合いになった。 「きゃあ!あなた」と気付いて起きてきた美代子が、びっくりして突然叫んだ。 俺はその声にびっくりした。 そして俺が怯んだ隙に、コソ泥は美代子を盾にとって後ろから首を締め上げたのだ。 「黙って言うことを聞け!さもないと女がどうなっても知らないぞ!」 そう言ってコソ泥は、きょろきょろ見回して武器になりそうな物を探しているようだ。 そして、それに目を付けた。 「お、おい。それに触るな!それだけはやめてくれ」俺は焦ってそう言った。 コソ泥が掴んだのは、ボトルシップだった。 瓶の中に帆船の模型が入っているやつだ。 俺の唯一の楽しみなのに、くそっ。 どれだけ時間を掛けたと思ってるんだ! 「早く金を出せ!出さないと、この瓶で女の頭をかち割るぞ!」そのコソ泥の脅しに、俺はいつのまにか心の声を叫んでいた。 「やめてくれ!俺の一番の、一番の大切な物を奪わないでくれー!」 それを聞いた美代子は感動して、はっと我に返った。そしてコソ泥の足を踏んづけて、瓶を奪ったのだ。 コソ泥は、踏まれた痛みでふらふらしている。 「やったぞ!よくやった美代子!」 俺は心の底から喜んだ。 帆船は無事だ! すると美代子は「この、コソ泥野郎が!」何と瓶を思いっきり、コソ泥の頭に叩きつけたではないか。 ガッシャーン! 「ええーっ!」 嘘でしょ? お、終わった、、美代子。 なんて、なんて事してくれたんだ! 気絶したコソ泥を尻目に、美代子は俺を抱きしめた。 「あなた、ありがとう!あなたの言葉で目が覚めたわ。愛が一番なんだって」 美代子はこれでもかと言うくらい、ぎゅうぎゅう締め付けてくる。 ああ、ち、違うんだ。 違うんだよ、、。 本当の事を言えるわけもなく、俺はただしばらく放心状態のまま、美代子の腕の中で突っ立っていたのであった。 終わり。
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