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「それでは新郎、新婦ご入場です」
流れる曲と共に扉が開くと、新婦綾子は新郎と腕を組み歩き出す。練習したようにつま先を少し蹴り上げて、ドレスを踏まないように気をつけて歩く。
会場には家族、親戚に友達が来てくれて、みんなが笑顔で拍手で出迎えてくれた。
「それでは新郎の上司である佐藤様より、ご挨拶の方お願いします」
「はい」
綺麗な式場、真っ白なウエディングドレス、待ちに待った幸せな日だ。綾子はちらっと一番後ろの家族席へ視線を向ける。そこに父親の姿はない。
「ふぅ」
小さく息をつく。父である史郎は結婚式の一週間前脳梗塞で倒れたばかりだ。幸い命は助かったが、右半身に麻痺が出た。一週間前ということもあり、仕方なく父親不在の結婚式が行われることになった。
仕方ないわよと母親は言った。兄もこればかりはなと苦笑いを浮かべ、おめでたいはずの式はどこか寂しい物になった。
「それでは皆様ご歓談下さい」
大きなスクリーンには幼い頃の綾子の写真が流れる。それを見ながら新郎は言った。
「綾子小さい頃から可愛かったんだな」
「近所でも評判だったんだから。とくにお父さんが……。」
「お父さんが何?」
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