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1.プロローグ
中学2年生になった。
今日はあたしの誕生日。でも、あたしの誕生日を祝ってくれる人なんて誰ひとりとしていない。
友達とよべる人なんていないし、お母さんもこっちを見てくれないんだから。
きっとお母さんは今日が何の日か知らないだろう。
だけど、お父さんはあたしのことを愛してくれていた。あたしの誕生日を覚えていてくれた。
「誕生日おめでとう」を毎年言ってくれた。
あたしはお父さんのことが大好きだ。
「ずっと一緒にいたい」
そう願った。
そう願った罰だろうか__。
その日は雨が降っていた。
すごく寒くて風の強い日だった。
最初はよく分からなかったが、白いベットに横たわっているお父さんの手に触れると嫌な汗がどっと溢れた。
お母さんは泣いていた。
あたしはなぜか冷静だった。
そのお母さんの涙を見てあたしは「お父さんはもういない」ということを実感した。
交通事故だったそうだ。あたりはしんと静まりかえっていた。静かすぎるほどだった。
外の雨の音がとても大きく感じられた。
今でもよく覚えている。お父さんの優しい声を。すごく優しくて少し掠れている低い声。
『"まの"、愛しているよ』っていつもあたしの頭を撫でてくれた。
あたしの事を"まの"と呼ぶのはお父さんだけだ。本当の名前は"まのん“だけどお父さんだとすぐに分かるようにとそうしていた。
でも、大好きなお父さんはもういない。
もう"まの"と呼んでくれる人はいないんだ。
3ヶ月後。唯一の味方だったお父さんを失ったあたしはまだ悲しみに暮れていた。
学校で無駄に分厚い大量の教科書の整理をしていると、目の前が少し暗くなった。
顔を上げると、クラスメイトの女子があたしを見下ろしていた。
「…な、なに?」
「まのんちゃんのお父さんって死んだんだね。」
彼女は躊躇なく言い放った。
あたしはよみがえる記憶に視界がぼやけそうになるのをぐっとこらえて、
「うん…交通事故だったよ」
彼女は一度「ふーん」と呟くと少し笑った。
「じゃあ、まのんちゃんも死ねばいいじゃん。この教室にあんたの居場所はないでしょ。もうその顔見たくないし。」
そう言うと今度は大きな声で思いっきり笑った。
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