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「恭ちゃん…?なんで泣いてんの?」
ひなのはそれでも必死に笑顔を作って俺に問いかけた。
そんな顔をさせたかったわけじゃない。
ちがうのに、止めようとしても涙は止まらない。
「…いや俺バカですよ?そうだけどさ、流石に自分が死んだかどうかくらいは分かってるっつーの。なのにみんなさ、なんでか知らんぷりじゃん?だから俺もさ、なんかそういう感じに合わせた方がいいのかなーなんてさ、空気読んじゃったわけですよ。」
ふざけた調子で並べた言葉がかえってこの場の空気を悪くさせているような気がする。
大悟がゆっくりと言葉を発した。
「じゃあ、はじめから…お前は俺達が必死に悟らせまいとしていたこと、知ってたってことかよ?」
その目には明らかな怒りの色が見てとれた。
「そうだよ。夏なんて自分で言っといてなんだけどとんだ茶番だなとか思ってたよ。だってそうじゃん、なんで幽霊が七不思議探してんだよ。自分でも笑っちゃったよ。」
大悟が俺の胸ぐらを掴もうとする。
しかしその手が俺を捉えることはなかった。
俺はもう我慢が出来なかった。
ボロボロと溢れる感情が止まらない。
「だって仕方ないじゃんか…!理由はわかんねぇけどさ、みんなは良かれと思ってやってくれてたんだろ?俺だってみんなと楽しくやっていけるならそれが一番だって思ってた!このまま俺が知らないふりをしていたらみんな笑っていられんだって思ってたんだよ、わりぃかよ!」
吐き捨てるようにそういうと、俯いたままの大悟は自身の顔に右手をあてて、ハハと力なく笑った。
「なんだよ…。バカみたいじゃん、何してたんだよ俺達…。」
指の隙間からぽとりと雫が落ちる。
「俺達だってさ、お前と一緒にいたかったから、お前が死んでることに気付いていないんなら、黙っていれば一緒にいられるって、そう思ってたんだ。死んだって気付いたら成仏しちまうかもしれねぇ。…せめて卒業まで、一緒に過ごしたかったんだよ。」
静寂が俺達を包み込む。
外気温は今、一体何度なのだろう。
みんなの口から出ている白い煙が俺にだけない。
俺はもう、みんなとは違うのだ。
「なんだよもう、それじゃ隠すことなんてなかったじゃんか…。」
思った以上に情けない声が出た。
涙声なので仕方ないのだけれど。
「俺の心残りはな、みんなで笑って卒業したかったって、それだけなんだよ。」
にへっと笑うと、みんながハッと息を呑む音がした。
振り返ると、満点の星空から幾つもの光の筋が降り注いでいた。
自分は本当にタイミングの悪い男だなとつくづく思う。
なんだかもうヤケクソになった俺は流れていく数多の星に叫んだ。
「くっそ、なんで俺なんだよ!俺が何したって言うんだよ!別に素行が良かったわけじゃねぇけど、何も死ぬほど悪いことなんかやってねぇじゃんか!」
ひなのが俺の元に近づいてそっと抱きしめてくれた。触れられないけれど、そのぬくもりは伝わった。
「…頼むから、せめて一個くらいは願い叶えてくれよ。」
その場に崩折れて俺は星空を見上げた。
「次もし生まれ変われるのなら、今度はもっと、みんなと一緒にいさせてくれ。」
一際大きな星の光がキラリと輝き流れていった。
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