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放課後になるとすぐ大悟が姿を現した。
「英司いるか?」
「いるよ、じゃあ帰ろうか。」
俺は教室に残る翔子にまた明日と手を振って大悟のもとに行った。
「悪いな急に。翔子はいいのか?」
「そんな小学生じゃないんだから、俺達だって四六時中一緒にいるわけじゃないんだぜ?」
「そりゃそうか。」
夏には青々と空に向かって手を伸ばしていた街路樹も、今はすっかり赤や黄色に変わっていた。
最初に口を開いたのは大悟だった。
「あの肝試しの時のスケッチブックの持ち主、二年の奴だったんだって。ひなのから話を聞いたんだけど、ちょっとムカつく野郎でさ、俺殴りに行こうかと思った。」
「お前が言うと洒落にならんから。」
「だってさ…」
大悟はひなのから聞いた事の顛末を話してくれた。それを聞いて俺もはらわたの煮え繰り返る思いだった。
しかし大悟はこうも続けた。
「でもさ、そいつの言うことが全部間違っているのかって言ったら、そういうわけでもないんだよな。」
「というと?」
「このままじゃいけないってこと。俺達もずっとこのままってわけにはさ、いかねぇじゃん。」
制服の上に着たコートのポケットに両手を突っ込んで大悟は一点を見つめている。
「ひなの、東京に行くんだって。親の仕事の都合らしいけど。翔子も海外行くかもなんだろ?俺は卒業したら店を継ぐつもりだし、英司だってこのまま地元進学するとは言え、きっといつかはこの街を出るんだと思う。」
俺は首に巻いたマフラーに顔を埋め、大悟の言葉にそのまま耳を傾ける。
「俺ひなのから話を聞いてさ、ずっと考えてたんだ。今俺達がしてることって本当に正しいのかって。恭平が死んじまった事実をなかったことみたいにして、なんとなく毎日を過ごして。その先に何があるかって言えば、何もない気がするんだ。変われるってことは俺達が今こうして生きてるからで、死んじまったあいつはもう、変わることすら出来ない。俺達には選択肢があって、前に進まなきゃいけない。そう思うんだ。」
「…そうだな。」
「英司、俺達は…そろそろちゃんと向き合わないとダメなんだ。俺達の為にも、あいつ自身のためにも。だからさ」
真実をちゃんと話そう
大悟はそう言った。
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