ランニング

3/4
前へ
/20ページ
次へ
 階段を上がった二階はレンタルDVDとゲーム機やソフトのコーナーになっている。営業中していた時に何度か来たのでどこに何があるのかわかる。 床の血溜まりを見つけると『ドン・・・。ドン・・・』と何度も繰り返す規則正しい音が聞こえた。  従業員更衣室の扉の前に、ビデオ店の制服を着た死者がいた。口は真っ赤に染まり、ノブを回す事もなく身体を無意味にぶつけている。こちらが懐中電灯の明かりを向けても気にも留めない。  タキトは銃を左脇に抱えると入れ替えるようにスコップを右手に持ち、槍投げのように飛ばした。  スコップは勢いよく素晴らしい直線を描いて、死者の側頭部に尖った先端が半分までめり込むと、腐った血をさほど散らす事も無く身体を折るように倒れた。動かなくなったゾンビからスコップを抜くと、タキトはドアを大きく叩いた。 「助けに来ましたよ!」  が、返事は無い。ノブを回すが鍵がかかっている。アイナがバールの先端をドアの施錠部分に差し込んで力任せに歪ませると、タキトも隙間に両手を差し込んで加勢した。  ゴキンッ!  破断した音が響くと、扉は解かれたように開いた。中を覗きこむと、小窓から差し込む午後の光に照らされた痩せ型の男の人影がゆっくりとぶつかってきた。 「う・・・ヴぅ・・・っ」 絞り出すような声を放つその人物は肉を噛み切られた片腕をだらんと下げていたが、真っ赤に染まったもう片方のまともな腕でタキトを埃の積もった床に組み伏せた。  間に合わなかったのだ。死者と化した救援要望者は助けに来た少年の顔に向けて口を開く。しかし、タキトは案外落ち着いていた。  助けに入ったアイナはゾンビが着ている服の襟を掴むと、軽々と持ち上げて壁に叩きつけた。大の字で壁に張り付いている間に、レッグホルスターから抜いた短銃身の二連発散弾銃を撃った。近距離で発射された対人用散弾は顔面が拳大に陥没した穴を刻み、感染者はずるずると倒れた。 上半身を起すタキトに、アイナは手を差し出した。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加