ランニング

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「大丈夫?」 「ああ。ありがとう」  タキトを立たせると、解放した銃身から発射済みの弾を捨てて新しい弾を装てんした。服にこびりついた汚れを払い落とすタキトは無線でエリに連絡をした。アイナは転化した人が立て篭もっていた小部屋に入ると血染めの鞄を調べた。 「エリさん、聞こえますか?」 『救援要請の人は?』 「ダメでした・・・」  互いにしばし沈黙してから、エリから応答が来た。 『気を落さないで。それより、少数グループのゾンビがそっちに向かっているわ』 「じゃあ、神社で合流しましょう」 『わかったわ』  無線を切ると、アイナが死んだ男性の身分証を探すのをちょうど終えた。少々呆れ顔だ。 「何かあったか?」 「配給カードがあったわ」  写真が貼られた名刺サイズの厚紙を見ると、隣の県の隔離地域が記されていた。隔離地域と聞くと刑務所のような高い壁が築かれていそうなイメージだが、現実はそんな物ない。間に合わせの資材で通りを封鎖しているだけで出入りは無法状態となっている。 「何でこんな所に来たんだ?」  疑問に思っていると、アイナは鞄を開いて見せた。中から出たのは防犯パッケージに入った最新ゲーム機用のゲームソフトだった。  彼も同様に呆れた。このゲームソフトはゾンビ発生の一週間前に発売されたシリーズものだ。そうなると出回っているのは少ない。もちろん、購入したゲーマーはいるだろうがどの家にあるかなんてわかるはずもない。だから、この男はゲーム製品を扱うビデオショップをしらみ潰しに探していたと考えれば、何故こんな遠方に来たのか説明がつく。  そして、幸運にもゲームソフトは手に入ったが、不幸にもゾンビに噛まれて命を落とした。  タキトとアイナも隔離区域の人達の為に足りない品々をゾンビの徘徊する区域の家や店舗から調達するが、あくまでも仕事としてだ。所有している銃だって、ゾンビ発生初期にやりたい放題で襲ってきた暴徒を殺して奪い、自分の身を守ると共に色んな人を助けてきた。  とりあえず、ゲーム品が入ったバッグはその場に保留し、身分証を持って逃げる事にする。申し訳ないが、遺体も置いて行く。チャンスがあれば引き取りに来るが、今ははさみで切った頭髪を遺品として持っていく。他はどこからか回収した少しの食料品と武器としての草焼き用のガスバーナーがあったのでいただいた。  二人は命を落とした人に手を合わせてから逃げた。
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