ナイトラン

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ナイトラン

 レンタルビデオ店を出た二人は大型店舗のならぶ幹線道路を離れ、市内の旧道を駆けていた。道が狭いのであちこちに事故車が放置されているので道を塞いでいる車を跳び箱のように乗り越える。  着地すると間髪いれずに走り出すが、十字路の死角から男のゾンビがのっそりと出てきた。くすんだ真っ白な長袖服の上の濃い緑色のエプロンは左側が引きちぎられている。最初は横を向いていたが、こちらに気付くと久々の獲物に指先が変色した死者は手を伸ばしてきた。  タキトは走りながらライフルの撃鉄を起すと、撃った。命中したのは鼻の辺りだが、射出口となる後頭部は大きく破裂した。手馴れた動作でレバーを下げると、次の弾の装てんと同時に真鍮製の薬きょうが飛び出て滑らかな金属音がアスファルトを叩いて響いた。  陽は刻一刻と沈んでいくが一旦足を止めた。タキトは使った一発を給弾してからリュックのスマホを出すと地図を起動させた。人工衛星を利用した位置情報はまだ生きているのだ。  遠くはないが、神社までまだ距離はある。アイナは手元が見えるうちに懐中電灯を点けると足元のゾンビの亡骸を凝視した。 「この人、もしかして・・・」 「知り合いか?」 「そうじゃないけど、知っている人よ」 「誰?」 「バスターミナル近くのステーキ屋さんのシェフよ」 「・・・ああ、あの人か!」  思い出した。確かに、エプロンにはその店の名前が記されていた。高価な店だったので一度も訪れたことはないが。ところが、アイナは口を尖らせて言った。 「怪しい商売してたらしいわよ、この人」 「どういう事?」 「厳選肉っていう宣伝文句で客を呼んでたのよ」 「それの何が問題なんだ?」 「厳選、って聞くと高級品に聞こえるから廃棄寸前の激安処分のお肉を『選んで』バカみたいに高い値段で提供してたの。あくまでも噂だけど、事実らしいわ」 「よく問題にならなかったな」 「日本語のグレーゾーン表現だったから。グルメな人の口コミも手伝ってね」 「いい加減な商売で食わしていた人が、喰われる側になったのか」  そう聞くと手を合わせる気もない。ある意味、自業自得の最期とも言える。
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