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アフターライフ
どこかの家の部屋で、赤シャツと灰色ズボンを着た高校生と思える少年がベッドに寝転がりながら右手に持つスマホの録音メモリーを聞いていた。スマホは最新モデルに違いないが、アンテナのマークは立っていない。
(あの人はどうなったのかな?)
自分にそうつぶやく。せっかく治った病気なのだから、どこかで今も生きていて欲しい。
少年の名前は、タキト。今年で高校を卒業する十八歳になる。高校を卒業すれば社会人か大学生になる道を歩むが、そんなのは自分が高校生になった年に潰えてしまった。
老若男女、善人悪人を問わず。日本人も世界中の人を問わず。
平穏だった時代を懐かしみながら連載が止まったままの漫画本を手にすると、教科書やノートが並ぶインテリアを重視した金属製の勉強机の上のトランシーバーが『プ・・・ッ、プ・・・ッ』と断片的な音をたてた。
『タキト君、聞こえる? 応答して』
若々しい大人の女性の声で名を呼ばれたタキトはベッドから起き上がると無線機を手にし、携帯電話を扱うような手馴れた動作で受信ボタンを押した。
「はい、もしもし?」
『よかった。今、取り込み中?』
「いえ、大丈夫ですよ」
『じゃあ、市役所に来て。D区域で救援要請が出たの』
「地元の人ですか?」
『違うみたい。外部の人らしいわ』
タキトは無線のスイッチを入れたまま溜息をついた。向こうの人物にも聞こえただろう。
「またですか・・・」
『悪いけど、安否の確認が必要だから急いでちょうだい』
「わかりました」
交信を終えたタキトはしゃがむと、ベッドの下から銃の入った長方形のケースを引っ張り出した。
両手で引き出した際、左手の親指は根元近くを残して消え、自然治癒した傷口は鮮やかな青色なのがわかった。
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