アフターライフ

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 タキトはケース上蓋の内側に張られた網から紙箱を出すと中で整列する30-30ライフル弾を七発抜き、レバーを下げて薬室を開けると一発目の弾を直接挿れた。次にレバーを戻して薬室を閉じると、上面にある安全装置を動かしてから露出している撃鉄を親指で抑えて中段で止めた。  最後に、横の装てん口から残る弾を送り込んだ。同型の銃は改良を重ねて色々なモデルがあるが、これは撃鉄の前進を止める安全装置が追加され、ライフル弾を使う『制式なライフル銃』として最も完成したモデルだ。  欠点は携行ベルトを引っ掛けられないことだ。そこで、この銃の主のタキトは銃床にテープをぐるぐる巻きにしてフックを固定し、前の方は銃身とチューブ弾倉の間に針金を通して輪を作る事でベルトを結えている。  銃の用意が出来ると、壁のハンガーに掛かる高校時代から使い続ける紺色の制服を着た。特に理由はないが、これを着ているほうが落ち着くのだ。右肩に縫い合わせたフットボール用の肩プロテクターやあちこちを縫って補修した痕が彼の活躍を物語っている。  制服の上から青いバンドを左腕に巻き、手袋をはめた。手袋のおかげで、左手の親指は外見上は存在しているようになった。  銃を背負うと予備の弾を入れたウエストポーチを腰に巻いて、階段を降りた先にある玄関でくたびれたスニーカーを履いた。玄関を出ると、庭で洗濯物を干していたタキトの母が気付いたので伝える。 「ちょっと、出かけてくるよ。救援要請が来たんだ」 「またなの?」 「そう。まただよ。しかもD地区」 「他にも人はいるのに・・・」 「あそこは誰も行かないからね。それにオレの方が動けるから」 「無理しないでね」 「大丈夫。普通に帰ってくるよ」  手を振りながらマウンテンバイクのスタンドを蹴って門を出る息子を母は見送るが、慣れない不安に小さく溜息をついた。  彼が漕ぐマウンテンバイクは広い道を進む。かつては自動車や路線バスが行きかっていたが、まだ午前なのに車どころか人影もなければ商店も営業してない。シャッターは閉じられていないが、割れた自動ドアや店の周囲を囲む雑草が空白の時間を感じる。  市役所が見えてくると、近くの公園で遊ぶ一人の子供が見えた。壁に向かってサッカーボールを当てているが、受ける位置がずれてタキトの方に転がってきた。
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