アフターライフ

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 彼は自転車を止めると、ボールを拾った。近付いた子共は「ありがとう」と笑顔でお礼を言ってボールを受け取った。 「こらっ!」  突然、大きな声が響いた。二人は驚いて声のした方を見た。この子の母親だろう、女性は血相を抱えて駆けつけるなり子供をタキトから引き離した。タキトの持つ銃に警戒しているのではない。左腕のバンドを睨んでいる。 「近付いたら、ダメよ! これは感染者よ!」 「でも、お母さん・・・・・」  自分の親に疑問を覚えた子共だが、ハンドバッグから出された霧吹きのアルコールが顔にかかったので、刺激で何も言えなくなってしまった。手はもちろん、ボールも消毒する。  感染者と保菌者は違うとタキトは言いたかったが、消毒が終わると手を引いて行ってしまった。子共は申し訳なさそうな表情だ。同情してくれる、それがせめてもの救いかもしれない。  ゾンビが世界で同時多発したあの時、タキトは左の親指を噛み千切られた。例外になく、ゾンビのウィルスは噛まれた人をゾンビにした。  噛まれれば、自ら命を絶つ人、排除で殺される人、恐れて隠れる人、隔離される人、人間として生きていたいので最期を待つ人。タキトは、最期を待っていた。  それは幸運だった。幼児、成人、高齢者が命を落とす中、タキト達のような十代から二十代の人間は『発症』しなかった。  それは年齢でなく、破傷風の予防接種を受けていたかで運命が別れていた。もちろん、予防接種を受けていても知らずに死んだ人も多かったが、それは世界的に一つの事実だった。  だから、破傷風の効力が消えている年齢層はゾンビ化し、小さい子供や老人はゾンビウィルスの力が強すぎて肉体が耐えられずに崩れたのが全ての結果だった。思えば、映画のゾンビは成人ばかりで、子供や老人はほとんどいなかった。偶然とはいえ、皮肉な事実だ。  その後、破傷風のワクチンを抗ウィルスとして接種する事で世界の終わりは避けられた。  しかし、ワクチンを接種したからと言って、保菌者である事には変わり無い。生き延びた人達にとってはその後、即ち、今が生き地獄だった。  さっきのタキトのように、汚い者として見られながら耐えて生きているのだ。  その生活環境は、かつての白人と黒人の人種差別と同様、<区分け>の扱いだ。
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