アフターライフ

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 重い気持ちが晴れないまま、市役所の駐車場に到着した。自家用車の姿は無く、消防車と救急車、パトカーが数台。隣に並ぶのは、重機運搬トラックに載せられたブルドーザーやショベルカー、中型ダンプといった工事車両、レッカー車、タンクローリー。そして、自衛隊のジープとトラック、バイク。  物々しい様子だが、『現在』の日本では普通の光景で数年前から変わらない。ゾンビ発生以降、警察署や消防署などは地元の役所に統括されるようになった。人口が激減した分、市役所の職員も同様に減ったので空いている部署にそれぞれの『公的機関』がうまく入っている。  タキトはがら空きの駐輪場にマウンテンバイクを停めてから市役所に入ると、一階ロビーのベンチで二人の女性が雑談していた。迷彩とは違う、オリーブグリーン一色の野戦服を着た女性はエリ。元は予備自衛官だったが、ありがた迷惑にも制式自衛官に昇格した。  もう一人の、合成の革ジャンとジーンズを着ているのはアイナ。同じ高校に通っていた同級生で、彼女も保菌者だ。髪に隠れて見えないが、右耳が無い。青いバンドは右手首に巻いている。  しかし、めげている様子は微塵も無い。それを裏付けるように、レッグホルスターには銃身と銃床を切り詰めた二連発散弾銃が収まっている。赤いプラスチックケースの弾が並ぶ弾帯はたすき掛けにしている。銃は本物だが、弾帯とホルスターはエアガンのを流用している。  アイナとエリが手を上げて挨拶したので、タキトも挨拶を返した。 「どうしたの、元気が無いわね?」  近付く前にアイナはタキトの様子に気が付いた。 「うん。感染者って言われてさ・・・」 「公園で遊んでいた子供のお母さん?」  見事な的中にタキトは驚いた。 「何で知ってるんだ?」 「ここに配給要望書の手続きをしに来てたからよ。アイナちゃんが場所を教えてあげたのに、あのお母さんは近付くなって言ったの」  そう答えたのはエリ。唇を軽く捻じ曲げて首を振る。 「ゾンビ菌は噛まれない限り感染しないのに」 「キスはしても大丈夫なのにね」  無口になった二人を気遣ってか、エリは駐車場に連れ出した。
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