アフターライフ

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 駐車場の一角に置かれた防音構造のコンテナが自衛隊の<駐屯地>となっている。回線の繋がっているパソコンもあれば、ワクチンを入れる冷凍庫と注射器、紫外線滅菌機のボックスと既に見慣れたものが目に入る。  在庫整理や輸送手配中の自衛官と軽く挨拶するが、人数はエリを入れても二十人未満。しかも全員が正規の自衛官に昇格された元・予備自衛官(警察官は八人だけ)。自衛隊の残存本隊は仮設政府の警備に回されているので、地方はこうした予備自衛官が務めている。 「はいっ。きちんと消毒しておいたから」  タキトとアイナは装備品をエリから受け取った。リュックサックを始め、ライダー用のアームプロテクター、野球キャッチャー用の脛あてが二人分。それから、スコップとバール。洗浄はされているが、どれも黒いシミの痕が残っている。  元・高校生の二人はゾンビに噛まれるのを防ぐ鎧代わりのスポーツ防具を身に着け、リュックを背負った。リュックは運搬目的もあるが、背後からの拘束を避ける効果がある。最後に、刀みたいにスコップとバールを腰に提げた。タキトがスコップで、アイナがバールだ。  エリも鉄かぶとを被り、一昔前に採用された六四式小銃を手にすると駐車場に向かった。  使うのはジープ。アタッチメントとして、フロントに縦半分に割った太い竹を針金で車体にくくりつけている。これもゾンビを跳ね飛ばす<カンガルーバー>の装備。以前は鉄パイプを使用していたが、今は補充しやすい竹で代用する事になった。  三人が乗ったジープは市役所を出て、救援要請のあった郊外に向かった。  ここまで読んでくれた方は、まだ一度もゾンビが出てない事を疑問に思うかもしれない。それはちゃんと、安全が確保されているのだ。もちろん、数年前まではそこら中を右往左往していたが駆逐が完了したのだ。侵入がないのは、壁を立てたのではない。意外にも、簡単に防衛線を築けた。  やがて、黒いアスファルトの幹線道路を塗りつぶす青い線が見えてきた。  あれが境界線。レッドラインならぬ、俗称・ブルーライン。  あの青い線の先がゾンビの徘徊する区域だ。青い線が横切る十字路の手前で停車するとタキトとアイナは車を降りた。
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