ランニング

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 二人は脳の潰れた死者の脇の下と足を持って路肩に寄せた。先ほど書いたように、ここは自衛隊の車両が通るので放置しておくと支障が出るし、死後に車に潰されるのも良心が痛む。  起動するかわからないが身元確認のためにスマホをリュックに入れると、再びビデオ屋に向かって走り出した。ビデオ店と書いたが、それは二階の部分で一階は本屋になっている。  ガラス張りの入口に来たタキトとアイナは自衛隊用のL字型懐中電灯を胸ポケットに入れると明かりを点け、それぞれの銃を手に中へ入った。  二人は迷わずに足を進める。ゾンビが発生する前からこの店を何度も利用していたので棚と通路がどうなっているか知っている。しかし、歩みは慎重だ。照明が消えているのは無論、商品の日焼けを防ぐ為に窓がないので真っ暗だ。懐中電灯の光に浮かぶ埃は異様に邪魔を感じる。  ウィンチェスター・ライフルを構えるタキトには長い銃身の先に、埃まみれの床に刻まれた真新しい靴の跡を見つけた。足跡は階段を昇って二階に続いている。  突然、タキトは腕で鼻を押さえた。生々しい臭いを嗅ぎ取ったのだ。アイナも何かをこするような音を感じた。しかし、本来この場所からではでは何も臭わないし、何も聞こえない。  でも、彼らにはわかる。なぜなら、体の機能が健全の人間とは異なるからだ。ゾンビの発生で、身体にウィルスを取り込んだ人は、五感のいずれかが発達する症状が出た。  タキトは嗅覚。アイナは聴覚だ。これでゾンビの存在を知ることで修羅場を何度もくぐり抜けてきた。ついでに言うと、高校生時代のタキトは太ってはいなくとも丸い体形だったが、今は鍛えられた身体になった。アイナは近眼で眼鏡をかけていた地味な存在だったが、視力が回復して活発な性格になった。良い悪いか、保菌者になった事で二人の人生は大きく変わった。
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