はじまりは、冴えない私にイケメン彼氏ができた日です

3/4
4535人が本棚に入れています
本棚に追加
/509ページ
   けれどそんな周囲と比べて坪井は意外にも穏やかだった。 『長生きして、いっぱい甘やかしてやってね』    妊娠したのだとわかった日。  嬉しそうに、そして少し切なそうに言ったの坪井のことを、今もよく覚えている。  それは、自分が叶えられなかったことなのかな。そう思うと真衣香も少し切なくなって、それと同時に強い決意も芽生えたんだ。 「高柳部長は、お前をベタ褒めで産休後は経営戦略に~。とか言うけど」 「え? そうなの、初耳」 「はぁ……絶対嫌だよ、八木さんがいるし」  ネクタイを解きながら、今度は坪井が拗ねたように口をとがらせた。 「他にもさぁ、今年の新入社員、総務に入り浸りすぎじゃない? 人のものだってわかってて舐めたマネするよね、あいつら」  刺々しい声に、真衣香は肩をすくめた。 「も~、営業部の子たちのこと? 新しい部長と坪井くんの空気が悪いから逃げてきてるんじゃない」 「俺のせいなの?」 「そうは、言ってないよ……」  いつの間にか毒づく姿も、拗ねる顔も、その後で甘える仕草も。素直に見せてくれるようになった。  そのたびに、きゅんと胸が締め付けられること。  恥ずかしいから最近は秘密にしている。 「お前は、どんどん人気者になってくね」 「涼太くんもでしょ? 笹尾さんに聞いたよ、経理の女の子から言い寄られてるんでしょ? 私がいてもいいから付き合ってくれとか」 「……チッ、この間残業させたから仕返しかな、あのやろ」 「そんな言い方しないの」 「…………ごめん」  落ち込んだ声を出して、真衣香に擦り寄って、そうしてきつく抱き寄せる。 「お前以外なんか相手にしないよ」 「……うん、ごめんね。意地悪な言い方して」  抱き寄せていた身体を、軽く抱き上げてそのままソファに座った坪井が、真衣香を膝の上に座らせ向き合わせた。  至近距離の、顔には今でもまだドキドキすること。知っているのだろうか? 「でも俺もマジで気が気じゃない。彼女になっても結婚しても、それでも……時々凄く怖くなる」 「どうして?」  言いながら髪を撫でた。  サラサラとした髪を梳かす、これは自分だけの特権だと思うと不思議と自信になるから。 「そんなので安心できないくらい、可愛くて綺麗で、毎日誰かの目を奪うから」 「……奪ってないけど、そうだなぁ、もし本当にそうなんだとしたら」 「したら?」
/509ページ

最初のコメントを投稿しよう!