23人が本棚に入れています
本棚に追加
季節の上では秋だった。街中は少しずつ寂しさを湛えていて、けれどもまだ夏の余韻を感じる。
「風情がある、と言うべきかしら」
喧騒が渦巻く街角。背の高い建物を、縫うように掛かる高架。雑踏、走行音、排気の臭い。正しい意味で生々しい、人の人としての気配。
そんな建築の影になる、赤信号が灯った十字路で、アリシア=レイノルズは嘯いた。それらを一度に認識し、理解しながら。
大審判以降、ここまで人が多く集まる土地はそう有りはしない。国としての豊かさや安全性以前に、そもそも人類の絶対数が決定的に減少したのだから。
『新帝ブリタニア』『九竜王朝』『大カナン諸国連合』ーーそれらが持ち合わせる事の叶った確かなバックボーンが、ステイツには無かったのだから。であるなら、この窮状も納得がいく。
「……確かな“歴史”のある国は羨ましいわね。ホント」
誰に聞かれるでもない独り言は、そのまま虚空へ溶け込み。アリシアは信号の変わった交差点を進んだ。
ーーー
今回の任務目標は、彼の同盟国と協力のもと、その国に巣食う内在的な脅威を排除し「ウィッチ・クラフト」の有用性を広く誇示するものとなる。まずはアリシアが先行して浸透、現地工作員と共に脅威認定とその調査を行いなさい。
同盟国? 現状のアメリカに、どこが仲良しこよししたいって言うの?
勿論、いつかの大戦以降、ずっと我々の傍に居てくれた国。あそこしか無いでしょう?
最初のコメントを投稿しよう!