このセカイに叛逆を

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 「最初から気になっていたけど、アナタそれで見えるの?」  「慣れは必要でしたが、なんとか♪」  「外せば?」  「それはワタシのアイデンティティーに関わりますので、ええ、マジで」  どういう理屈だ、とは思う。けれどこの男との商談は今回が初めてではないし、今さら気に留めることじゃない。スノウと呼ばれた壮齢の女性はそれだけ確認し、嘆息する。  「……とりあえず、君はいい仕事をしてくれたよ。ありがとう」  「滅相もございません」  にんまりと、満足そうな笑顔浮かべ、この男は深々頭を下げる。後ろで結わえまた黒髪の一本結び、ベージュ色をしたスリーピース、両手で下げる黒いアタッシュケースまで、なにやら嬉しそうだ。  その右手と黒皮張りの取っ手を繋ぐ、銀色に輝く手錠は除いて。この暗がりで、本来なら目立つくらい輝いているのに、それと感じない不気味な手錠。  認識できない、というべきか。あれもまた、かの「大審判(リヴァイアサン)」の産物、というわけか。  スノウは自らの思考を切り上げ、懐のタバコに手を伸ばす。近くの若い女性の技官が困ったような視線を向けるが、その程度は慣れたもの。  「……あの「大審判」からこっち、我々アメリカ政府はこの世界に対して後手に回りすぎた。かつての超大国が、見るも無惨に砕かれ裂かれ、今やこの北米大陸は群雄割拠の様相すら呈している」  「そりゃあそうでしょ。なにせアメリカ大陸そのものが“物理的”に裂断されたのですからねぇ。政府機能がズタズタにされたのも、各地の地下組織やPMFが割拠独立したのも、そうしてステイツの国威が地に落ちた結果、西海岸一円のみが「合衆国府」として認知されるような、そんなどん詰まりなんですから」
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