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「ええ。だから我々は、もう一度この世界の覇権を握る必要があるの。この脆弱で儚い、そして美しい地球という船の舵は、決して『新帝ブリタニア』や『九龍王朝』には渡せない。ましてやあの遺物どもの……“協会”の台頭など許せる訳がない……!」
「フフ、左様ですか」
鷹揚な態度の男に、自分の剣呑な語気を丸められる。しまった、言い過ぎた。スノウは自分を鎮めるように、深く紫煙を吸い込む。
今は、感情に任せる時では無い。まだこのどす黒い激情は仕舞っておくべきだ。
スノウはそう、自分へ確認するように煙を吐き出す。精密機器の類いが多いこの秘匿指揮所で、タールやらニコチンやら多くの不純物を含む気体はかなり忌避されるものだけれど、それはそれ。
戦場にあって、禁煙ほど馬鹿らしい節制もない。悪名轟く第三帝国すら、すべての兵士に禁煙を徹底することができなかったのに。
そうだ。ここは戦場。世間に公表できない基地の、何より秘匿されている地下室の、誰にも決して明かせない、世界への“宣戦布告”を準備する。
叛逆の為の戦争ーーその最前線に立っている。
「それでは、我々はこれで。“計画”は当初の予定通り、ということでよろしいですね?」
「よろしく頼むわよ「ヤタガラス」。協力には感謝はしている。プレジデントもお喜びよ」
「恐悦至極でございます。しかしお気遣いは無用ですよ? ワタクシの祖国は、貴国とは古く同盟関係なのですから」
「けれど、失敗は許さないから。覚悟しておいて」
「ウフフフ。それは、とても怖いですねぇ……」
男はそう言いながら、口に出す恐怖と真逆の態度で暗室を後にする。ギラリと光を返す手錠が、威嚇に牙を剥く獣にも見えたけど、男の視線は穏やかそのもの。
別々の意志を、ひとつの身体から感じる矛盾。スノウはそれを否定しないし、出来はしない。
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