このセカイに叛逆を

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 少女の見える位置に、それは無い。音だけ聞いて、直後に来た衝撃と爆炎に対応する術はなかった。  身を焦がす炎。衝撃の波。  少女はそれらをモロに食らいーー  「……まったく、煙いわね」  平然と、爆煙から歩き出た。ワンピース状の手術着は、オイルの返り血以外の汚れは無い。  傷のひとつもなく、爆風は少女を見逃した。より厳密には、“見逃させた”、と言うべき現象なのだと、少女は知っている。  『ーーこれにて〈ウィッチ・クラフト計画〉の全工程を完了したものとします……良くやったわね、お疲れ様』  気色ばんだような、あるいは安堵の響きを持った声色。この声の向こうで、彼女は一体どんな顔をしているのだろう。  少女は立ち止まり、まるで天使のお告げのように降り注ぐ声へ向かって、敬礼を返す。綺麗に肘の開いた、角度の整った敬礼。  『同時に、〈ウィッチ・クラフト計画〉主要構成員は現時刻をもって私、スノウ=グレイシャー仮想国務次官直属の実働部隊へと編入。部隊名を「ウィッチ・クラフト部隊」とし、その隊長を貴官に任ずる。これは命令である、拒否は認めない』  「ーー命令を確認。了解しました。特務大尉アリシア=レイノルズ、謹んでその任をお受けします。ステイツに神のご加護を」  それは正しい意味での儀式であった。慇懃で丁寧で、独特の荘厳さを湛えた振る舞いのひとつ。    命令と受諾。契約と、その履行の確定。ただそれだけの光景、幾度となく誰となく繰り返されてきた筈のワンシーンは、しかし二人にとっては特別だった。
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