ひだまりたいよう

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 昔から、自分は人と違うところが多いと自覚していた。楠木李衣弥(くすのきりいや)は小学生の頃、周りの友人が話す内容をあまり理解出来なかった。思春期になるとそれは益々顕著に現れた。特に、クラスメイトとの趣味嗜好。皆は水着のグラビアだとか、話題の女優やタレントを好みだというのに全く興奮しない自分がいて、それが他と違う事を示していたのは明確だった。  けれど今更、楠木はそれに悩む事はない。自身の趣味をひけらかす事もしなければ、他人の嗜好を馬鹿にする事もない。友人も、彼にしつこく聞いてくる事もないために、あまり神経質にならなかった。 「りぃ、今日部活は?」 「……休み。だから帰る」  ぽつぽつと呟くような話し方。そんな楠木は11月の半ばで既に首元にマフラーをしている。所属する茶道部が顧問不在で今日は休みになった。学校で時間を潰す予定もなく、大人しく帰路につく事にした。  今日は火曜日。課題も特に出されていない。どうしようかな、そんなふうに考えつつゆっくりと歩いた。ひんやりと冷えつつある空気と、日光の暖かさが心地良い。すうっと息を長めに吸うと、鼻腔に冷たい空気がつんと刺さった。 「……帰ったら、なにしようかな」  ゲームに読書に、あと仕事でいない母親の代わりに糠床を返そう。今日は何が食べ頃だろうか。  楠木は、他の同年代と比べるとあまりしっかりしたタイプではなかった。こんな時も、ぼうっと考えつつ歩いてしまうから、周囲への注意が疎かになる。  ───チリン、チリン。  それは、季節外れの、夏の音だった。  凄い勢いと共に、風が強く吹き抜けていった。そして、だんだん大きくなる誰かの叫び声。 「あぶねええええええっっ!! 退いて退いてえええええっっっ!!!!」
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