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タンポポの場合、運気最高の年が五年前。そこからズンドコと棒グラフが短くなっていく。
で。
ゼロ年の今年。
棒グラフの棒がなかった。
棒グラフなのに棒がない!
そんなの棒グラフなんかじゃない!
わたしは声を大にして言いたい。
ゼロ年で棒がゼロだなんて。
どんな罰ゲームだと。
過去が最高だった。じゃあ未来のグラフはどうなっているか。
タンポポの未来はふた通りある、となっていた。今年のタンポポは特別な年だ。ここで選択肢を間違えれば、棒グラフは低迷を続ける。
しかし敢えて不慣れなことを突き進めば、道は拓ける。来年、棒グラフはグンッと伸びる。
不慣れなことで挫折すれば、これから先、棒グラフは伸び悩む。
とりあえず。
不慣れなことを頑張れ。
これが今年の指針である。
当たっているような、いないような。占い結果を提示してもらえたような、自己責任で頑張れと適当に放られたような。モヤっとする。
他の占い本と比べて高かったのに、費用対効果が望めなかった。
わたしが占い本に頼ろうとした多大なる理由。それを噛み締めるように思い返す。
ゼロ年の今年。節分の豆まきを済ませた翌日。かねてから噂があった会社の合併が正式発表された。
中堅リフォーム専門会社の事務職員として新卒雇用され、一年経っていなかったわたしは、新年度早々、思いもしなかった大手不動産会社の社員となった。
吸収合併されても、わたしの仕事は変わらず事務処理だと聞かされていた。周りの先輩方と本社移動日に向けて、段ボール箱に書類を詰め込んでいた。
「吉井さん。吉井咲来さん。ちょっといいかな」
元上司になるか、引き続き上司となるか、本人も戦々恐々としている五十代の気弱な現上司が、わたしをこそっと手招きした。
わたしはひょいひょいと打ち合わせ用パーティション内に向かった。
見慣れぬ若い男性が居た。
本社社員と、説明を受けた。
わたしが占いの本を買い求めた理由。
有月風谷との出会い。
この日、ここから始まった。
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