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三階まで階段で上る。
守内さんの部屋がある東に向かうわたしの肩を、珀花さんが掴んだ。わたしは足を止めて振り向いた。
「どうしたんですか」
「咲来ちゃん、あなた、軽く東側に入ったわね。なんともない?」
「なんともとは」
何だ?
「何も見えないけれど、空気の壁、透明な障壁があるように感じる。もしくは押さえつけられるような重力が加わり、体が重くなった気がする。……とかない?」
「珀花さんはするんですか」
「わたしね。東側に行こうとすると、いつもそんな感じを受けるの」
空気の壁に無理やり潜り込む。
そののち気圧の高い場所、たとえば海底深く潜ったように体全体に圧力がかかっているように感じる。今もその状態だという。
「わたし、鈍感みたいです」
占い師の珀花さんのように、繊細な感覚を持ち合わせていないらしい。
「鈍感。素晴らしい特性を持っているのね」
珀花さんに褒められた。
と思ってもいいのだろうか。
ともあれ。わたしは珀花さんに肩を掴まれた姿で、守内さんの部屋のチャイムを鳴らした。
「まあ珍しいこと。さあどうぞ」
「いえ、メールではご無礼かと存じまして、直接お伺いしたのです。できれば一階にお越しいただけないかと」
「構わなくてよ」
珀花さんが守内さんの室内訪問を固辞したので、守内さんを誘って一階出張所に降りて来てもらった。
「それで何のお話かしら」
粗茶をすすり、小首を傾げた。
「単刀直入にお伺いします。このマンションに、わたしのような占い師、または祈とう師の類いは必要ですか? 特別な技術、能力を持っていなくても乞われれば相談に乗れる、もしくは対象者と話し合う中で、道案内っぽいことが話せる。それだけの人でもマンション住人の案内人となれるでしょうか」
過去にそのような管理人が居なかったかと、守内さんに問う。
「それは咲来ちゃんのために?」
「彼女、占い関係はまったくの受け身です」
そうです。占い本で知った棒グラフに右往左往しかけています。ここで一気に上昇気流に乗りたいわたしです。
「珀花ちゃんの前の管理人が誰か、知っているかしら」
聞いているかと訊く。
「聞いていませんね」
「有月さんよ」
意外過ぎる名前が出てきた。
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