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「直感案内人の咲来ちゃんには、責任転嫁できる物、容易に捨てることができるアイテムが要る。珀花ちゃんはそう言いたいのね」
「その通りです。その点を踏まえてお伺いします。有月はどのように案内をしていましたか? そして、相手からクレームがきた際の対処はどのようにしていたでしょうか」
「彼はね、いわゆる祈とう師というものなのよ。どこの組織にも属していない自己流の市井の拝み屋、みたいなことを言っていたわ」
「拝み屋ということは、道具に頼らずに、直感で案内していた?」
「そのような感じだったわね」
「では。相手から逆恨みされた場合、言い逃れはどのようにしていたのでしょうか」
「力尽くで説き伏せ折伏させる。または全速力で逃げる」
守内さんがおっとりと、何やらどろりと引っかかることを言い、笑った。
「トラブル発生時、逃走は自転車で」
わたしは慌てて会話に参加する。
「そうよ」
守内さんが平然と返した。
珀花さんが首肯した。
自転車は危険なときに逃げ出すための必要アイテムだった?
守内さんは有月サンの作業行程を見ていて、わたしに自転車の有無を聞いた。
それは有月サンがマンション入居者とトラブったとき、危険回避のために自転車で逃げていたから。
現在入居中の人と入居希望者の間でトラブル発生があり、とばっちりを受けないように、一旦、マンション敷地外に避難するために、自転車が要る。
って、それ。
問題を抱えた人が集まってくるマンション、ということ?
入居時のトラブル発生は日常茶飯事で、ヤバいと思ったらちゃっちゃと逃げろ!
わたしはそういう仕事に就いた?
「有月サンは、不動産会社の社員ではなかったのですか」
新たな疑問がわたしの口を突いて出た。
「社員よ」
「わたしもそう聞いて、スカウトされてここに来たわ」
「拝み屋の社員?」
「不動産会社の社員だもの、いろいろな特技を持ち合わせているほうが、何かと便利なのじゃないかしら」
「ああ、それはそうかも」
そういうものなのか。
二人に折伏?された気がする。
それはそうとして。
「じゃあ、わたし、どうすればいいですかね」
経験豊富な二人に我が身を乞うた。
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