1:依頼

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 依頼人の住む場所は昔ながらの日本家屋であったが、非常に立派な屋敷だった。女性に案内されながら縁側の廊下を進む。 「おばあちゃん、探偵さんが来たよ。」  一番奥の日当たりのよい一室。障子越しに女性は中に声をかけ、静かに開けた。部屋は昔ながらの家具が並び、その中央、小さなちゃぶ台の奥に老婆が座椅子に腰掛けていた。 「遠くからお越しいただいたのに、碌なおもてなしもできず申し訳ありません。この歳になると身体を動かすのすらやっとでして…。」  老婆は見た目は90歳近いようだが、しっかりとした声で自分の非礼を詫びた。そして金田をちゃぶ台越しに座るように促した。彼が腰を落ち着けると、女性はお茶を淹れるために部屋から出ていった。それを見届けて金田は口を開く。 「今回のご依頼は人探し。成功報酬はあなたが保持する全財産、でよろしかったですか。」  本来、人探しの依頼は労力と報酬が釣り合わない。そんな人探しの依頼を、金に執着する金田が受けたのは、この常識はずれな成功報酬のためだ。 「はい。あの方を見つけてくださるのでしたら、この財産を全てお渡ししてもよいと考えています。」 「ご家族は同意されているのですか。」  あとでトラブルになってしまっては面倒なため、金田は入念に確認をする。と、そのとき障子が開き、先程出ていった女性がお茶をお盆に乗せて戻ってきた。老婆は女性をチラリと見たあとに、金田の質問に答えた。 「ご心配なく。家族への財産分与は済ませています。私が持つ全財産をあなたに全てお渡しします。」  金田は安心するとともに、少しがっかりした。財産分与を済ませたあとでは、碌な額が残っていないはずだ。  しかし― 「わかりました。この依頼、お受けします。」  金田はあっさりと受けた。面倒になれば、適当な老人を連れてきて報酬を騙し取れば良い。そう考えたからだ。老婆はそんな金田の考えも知らず、その言葉を聞くと目頭を押さえながら何度もありがとうと言った。
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