2:調査

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「だいぶ疲れているな。忙しいのか。」  医師からの定期報告と今後についての説明を受けた後、金田は病室のお爺さんを訪ねた。お爺さんは金田にギロリとした目を向けながら尋ねてきた。とても先が長くはないとは信じられない目だった。 「ちょっと厄介な依頼をこなしているだけ。心配ないです。」 「お前が苦労する依頼?どんなのだ。」  お爺さんは金田の才能を認めていた。だからこそ彼が苦戦しているということが信じられなかった。  金田の頭の中で「守秘義務」という言葉が一瞬浮かんだがすぐに消えた。 「人探しです。依頼主はお婆さん。探し人はずっと一緒だった男性。依頼人が70年前に記憶を失い、恐らくその頃にいなくなってしまったみたいです。お爺ちゃん、何か心当たりありますか?」  概要を話し、大した期待をせずにお爺さんに尋ねる。いつもであれば「知らん。」と即答するお爺さんだったが、なにかを考えるような表情をしているのに金田は気付いた。金田がそのことについて口を開こうとしたとき、看護師が入ってきた。 「金田のお爺さん、先生がお話あるって。一緒に行きましょう。」 「…あ、あぁ。すまんな。忙しいなら帰ってもいいぞ。」  そう金田に言い残し、お爺さんは看護師に連れられて病室を出ていった。  金田は頭を抱えた。今の呼び出しは、お爺さんに死期が近いことを伝えるためのものだろう。戻って来たときにどのように迎えればよいのか。それを考えただけで非常に頭が痛くなってきた。  そのとき、病室の枕の下に何かが挟まっているのに気が付いた。枕を持ち上げてみるとそれは古びたノートだった。かなり古い物のようで全体が茶色く変色している。流石の金田でも中身を見るのは気が引けた。そのかわり、何も考えずくるりとノートをひっくり返した。  お爺さんはよろよろと廊下を歩いていた。そろそろとは思い覚悟はしていたが、いざ死の宣告を受けるとやはりショックだった。それでも息子に弱いところは見せられないと思い、シャンとして病室に入る。金田はベッドの傍に立ち尽くしていた。 「戻ったぞ。どうした、そんなところに立って。」  そう言ったあと、お爺さんは金田の手に古びたノートが握られていることに気が付いた。金田はゆっくりとお爺さんの方に顔を向けると、静かに口を開いた。 「お爺ちゃん、お爺ちゃんの本名って『佐藤庄吉』って言うのですか?」  古びたノートには金田の知るお爺さんの名前ではなく、「佐藤庄吉」という名前が油性ペンで書かれていた。
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