1:依頼

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1:依頼

 一般的に言えば、この金田という探偵は「良い探偵」とは言えなかった。名は体を表すとは、この探偵のためにあるといってもよいくらいだ。それ程、この探偵は金に執着していた。金にならない依頼はそもそも受けず、途中で割に合わないと思えば即座に依頼を断るほどだった。  それでも、この男が探偵を生業とすることができたのは、彼に探偵としての天賦の才があり、彼に依頼すればどんな難題も解決してしまうためだった。  北風が一層寒く感じるような田舎町。その場所へ金田は来ていた。今回の依頼は人探し。労力の割には金にならない、本来なら彼が絶対に受けない依頼だ。  駅の改札を出ると、セーターを着た若い女性が立っていた。隣にはいかにも安っぽい軽自動車が停まっている。金田が事前に聞いていた特徴そのままの格好だ。 「あなたが依頼主の方ですか。」  金田が声をかけると、女性は肩を跳ねさせたあとに、はきはきと答える。 「はい!あ、正確には私ではなく、私の祖母ですが。さぁ、車に乗ってください。」  その言葉を聞き、金田は少し顔を引きつらせる。依頼の時点で正確な情報を伝えないのは、面倒くさい依頼のことが多い。古臭く、小汚い軽自動車に乗りながら、彼は内心で舌打ちをした。
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